リト・ノート
「この幻覚っていうのが、こないだ私が来た時のこと?」

気味悪がるような沙織の声のトーンを聞いて、やはり知られたくはなかったと美雨は思った。

「幻覚? なんだこれ?」

沙織から取り上げるようにして最終ページをさっと読んだ羽鳥が美雨を見る。

「見えたの。誰かが追いかけてきて、ドアが開いて入ってくるのが」

「それってリトと関係あるんだよな。あの後また寝ちゃったわけだし」

疑いを挟むことなく質問してきた羽鳥に、美雨はこんなときなのにホッした。羽鳥は最初からこうやって信じてくれた。つながって聞こえる前から、一度も疑われなかった。

「たぶん。でもリトは見せてないって言ってた。私が勝手に思い出したんだって」

羽鳥がノートを凝視して考え込んでいる。沙織はどう反応していいかわからないように、立ちすくんでいた。

今まで隠してきたことも話さなきゃと思った。

「あの日だけじゃないの。ずっとどんどんおかしくなってた。書いてないけど、途中からは部屋にいなくてもリトの声が聞こえるようになったの。ここにリトがいる間も『羽鳥がカゴをちゃんと掃除しない』とかよく話しかけて来てた。手が痛いって言ったあの日は、私が声に出さなかった言葉も羽鳥に聞こえてた。それに疲れて寝ちゃうこともなくなってたでしょ? 力が強くなってて、こんな幻覚まで見えるようになってもう嫌だって言ったの。もうこんなの終わりにしたい。もう話しかけないでって」

沙織は何を言っていいのかもちろんわからないようだったし、羽鳥も何も言えなくなっていた。

「できるならこのまま全部終わりにして、なかったことにしたい。もうこれ以上、変なことに関わりたくない」

2人の視線を避けるように下を向いて、美雨は言いきった。リトに謝りたい気持ちもあったが、力がこれで封印されたならそれはそれでよいと思えた。
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