リト・ノート
ちょうど手にしていたスマホが急に震え、部屋に着信音が響いた。
『今どこ? 家?』
いつになく性急な羽鳥の問いに「うん」とだけ答える。
『悪い、リトが逃げた。省吾と一緒に探してるけど見つからない。美雨が呼べば来るかもしれないから来て』
うっかり窓から逃げてしまったという。いつものリトの方だったらしいから、何か目的があるわけではないのだろう。
夕暮れでカラスの声が聞こえ始め、危険な時間だと思われた。
美雨がわかるところまで来てくれるという羽鳥に犬がいたあの角を指定した。そこから引き返して走り出した羽鳥に必死で付いて行く。
うっそうとした木が茂る大きめの公園で名前を呼ぶが、聞こえるのはカラスの声だけだ。
「なんにも聞こえないか?」
「無理だよ、もう話しかけないでって言った」
「わかってる。でもこの辺にいる気がするんだよ。怪我してるかもしれない」
羽鳥はリトとつながっている。美雨はそう思った。話せるはずなんだ、本当は。
「羽鳥ならできるよ」
「俺は無理だって。リトもできないって言ってただろ」
「そんなことない。できるよ。お願い、リトを見つけて」
美雨は羽鳥の手を取って、薄暗い空を仰ぐ。
「羽鳥にはできるんだって、私は知ってるから」
自信を持って伝えると、手にぐっと込められた力が伝わって来た。リト、リト、リト。美雨も必死でリトを呼ぼうとした。