リト・ノート
「起きろ。風邪ひくぞ」
肩を叩かれて目を覚ました。美雨も一緒に寝てしまったらしい。とっぷりと日が暮れていた。
「今何時? 体は平気?」
「そんなにたってない。陸上部の体力バカにすんなよ」
「でも、体力は関係ない気がするけど」
あの疲れは基礎体力ではなく慣れの問題に美雨には思える。慣れない新しいことをして脳が疲れる感じだ。
羽鳥が立ち上がると、美雨はぶるっと体を震わせた。
「筋肉がないから冷えるんだろ」
羽織っていた上着を脱いで美雨の膝に放り投げて来るが、中は半袖Tシャツだ。それでも寒がる様子も見せないのは、確かに運動部らしかった。
「リト、大丈夫かな」
「怪我してる気がしたんだよな、なんとなく。それにいつもあいつの意識があるわけじゃないからどうなるかな」
さらっと言った後で「でも大丈夫だって言ってたから、そうなんだろ」と慌てて羽鳥は言い添えた。
「ごめんな」
「私が迎えに行かなかったのが悪いんだよ」
「それだけじゃなくて、全部。お前が嫌がってるとか怖がってるとか、全部無視して勝手なことしててごめん。今さら遅いけど、沙織のことも俺がめんどくさがったせいでごめん」
「ううん。私が自分で言えなかったせい。羽鳥にも沙織にも、ちゃんと言えなかった」
結果を心配しないで、やりたいことをすぐやる。
今なら少しリトの話がわかる気がする。
怖がらないこと。美雨にとってはそういうことだった。わかったとしても難しいことに変わりはないが。
「美雨がどう思ってるか、俺全然わかってなかった」
苦々しく悔やむ姿に、どう思ってるかってなんだろう、沙織に聞いたのだろうかと気になる。羽鳥を今さら困らせたくはなかった。