リト・ノート


「羽鳥」

玄関前まで来てさっぱりと帰って行く後ろ姿に思い切って声をかけた。

「羽鳥がいなかったらもっと怖かったと思う。今まで付き合ってくれてありがとう」

わざとおかしな言葉を選んだ。通じないとしても、美雨には告白にも匹敵する言葉だった。

美雨にとっては『付き合ってる』に限りなく近い経験だったから。

今までになく近づいた男子。たくさんの優しさと可能性を持ってる男の子。

これで全部が終わり、と美雨は空を見上げた。リトを失ったのにもう涙も出ない自分を薄情だと思った。



春先のベンチで眠ってしまったせいだろう。美雨はそのまま翌日から熱を出した。羽鳥とお母さんがお菓子を持ってあいさつに来てくれたが顔は出さず、階段の上から玄関の話し声を聞いていた。

お金で済むとは思わないが小鳥を飼い直すなら費用を負担させてほしいという羽鳥母に、ママは「美雨が世話をしきれなくて羽鳥くんにお願いしていたんですから」と取り合わなかった。

「もう少し根気があるといいんですけどね」と続いた本音は余計だと思ったが、ママにそう見えたのはしかたがない。



泣いたりするかと思った弟は、リトのことを忘れかけていたらしく「みつかるといいね、おねえちゃん」と明るく言っただけだった。小さい子ってすごいなと美雨は呆れながらも頼もしく思った。

そうやって忘れてしまえればいいのかもしれない、自分も。熱の取れないぼんやりした頭でそう思った。


帰って来た空っぽの鳥カゴはカバーをかけて部屋の隅に置いた。もしもリトが帰ってきたらまた吊るそうと思ってはみたものの、そんな日が来ないだろうということも予期していた。


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