リト・ノート
5月の修学旅行がすぐにやってきて、山根に「ずっと好きだった。付き合ってください」とまじめに告白された。慌てて断ると「受験終わってからでもいいから、考えて欲しい」と言われた。

どう言うわけか学年中を駆け回ったこの話は「受験が終わっても、誰とも付き合う気はない」と美雨が振ったという後日談も付いていた。

「誰とも」と言った覚えはないけれど、別にいいかと美雨は思った。そう言われればそんな気がしたから。



羽鳥は中学最後の陸上大会に向けて頑張っているようだった。クラスと部活が違うとこうも会わないものかと思うほど、すれ違うことさえまれな毎日だった。

羽鳥の様子は時々沙織が話してくるけれど、美雨の方は3年生になってから一度もまともに話したことがない。

もともとその程度の関わりだった。元に戻っただけなんだ、これが普通なんだと思おうとして、それでもいつの間にか目で探している自分に美雨は気づいていた。

夏の地区予選では勝ち上がったものの都大会出場には届かなかった。羽鳥は悔し涙を流したらしい。

あんなに飛ぶように速いのに上には上があるんだと美雨は改めて知った。

また傷ついてないといい、と祈った。頑張ってもできないなんて思ってないといい。


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