リト・ノート
夏休みに入ると三者面談が始まる。少しずつ話題にはなっている志望校について、初めて親を交えて真面目に向き合う機会になる。

並び合う3年生の教室前で順番を待つ何組かの親子がいた。羽鳥親子も見かけて母同士が会釈しあったが、羽鳥は軽く目を上げただけで、美雨は挨拶するタイミングを逃した。



面談では、おとなしい美雨には女子校があっているはずと母が持論を述べた。でも本人の希望次第だと付け足す。中1の時と同じクラス担任は、黙っている美雨に目をやった。

「中園は? どうしたい?」

「まだ、考えてます」

「そうか、中園らしいな」

少しため息をつかれた。考えすぎて動けない美雨の性格もよくわかっている教師だ。

「内申点もいいし公立のかなり上位も十分狙えると思いますので、ご家庭でよく話し合って決めてください」

ママとはまだまっすぐにお互い本音で話ができない。美雨に合った学校に行って欲しいと言いつつ、本音は親族と同じ学校へ進ませたいという気持ちも持っているのがわかる。

それが嫌なわけではない。ただもう前ほどそれが当然だと思えなくなってきていて、だからと言ってどうしたいのかははっきりしない。

変われてないな、あんなに色々あったのに。自分がやりたいことがわからないことを、美雨はうつむいて反省していた。

< 131 / 141 >

この作品をシェア

pagetop