リト・ノート
そんな美雨を見て思うところがあったのか、担任が改めて母に向かい合うように姿勢を正した。

「私はこの学年を3年間見てきてね、みんな成長したなと思ってるんですよ。その中でも中園さんは1年の時とは変わってきたと感じさせる子です。強く自己主張するタイプではないですが、だからこそ様々な人間と触れ合うことで成長できる子だと私は思います。今年は委員長もつとめていますし、おとなしいという言葉だけでくくるのはもったいないお子さんですよ」

美雨を勇気付けようとするその言葉に、胸が熱くなった。暗に「女子校が向いている」と決めつけた母を諌めているのだ。

おとなしいとは思わないと以前言った人のことも、嫌でも思い出した。



教室を出て歩きながら、図書室に寄って行くから先に帰ってと母に告げる。

角を曲がり階段を降りかけたところで、後ろから足音が追いかけてきた。振り向かなくてもわかる気がしたが、やはり羽鳥の走る音だった。

「俺も図書室行くところ」と言って夏休みの静かな校舎内を並んで降りていく。

そんな風に隣にいることが久しぶりすぎて、美雨の心臓は忙しく鳴っていた。歩きながら話題を探すが、羽鳥は相変わらず沈黙を気にしていなそうだ。

いつの間にか見上げるほど背が高くなっていることに気づいた。
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