リト・ノート
「大会、残念だったね」

と思い切って美雨から声をかけた。ああ、と羽鳥が立ち止まる。

「でもあれで自己ベストだからさ」

そうなんだ。だったら言うことを間違えたかと美雨が目を泳がせたことに気づかず、羽鳥は続けた。

「高校行ったらたぶん種目変える。もうちょっと自分に合ったことをやれば、勝てると思う」

まっすぐな目つきと力強い声だった。羽鳥は傷ついてなどいなかった。終わってしまったことじゃなく、前を見てる。

離れてしまった今になってやっと素直な気持ちで見られる。美雨はそんなことを思った。キュンとするってこんな感じなんだ。

「志望校決めた? あの女子校?」

羽鳥も美雨のことを聞いてきた。

「わからない。自分で選びたいと思ってる。でもまだわからないの」

それ以上、美雨は言葉が何も出てこなかった。あんなにいつも話してたのに。

「俺、たぶん大山に行く」

トップ校を目指すんじゃないんだとちょっと驚いたのが伝わったのか、もう少し言葉が続く。

「上を目指せとも言われたんだけど、あそこ厳しそうだからがちがちにやらされるの嫌だなって。逃げるのかとかまた父親に言われたけど、そうじゃなくて。俺は省吾みたいなエリートコースじゃなくてもいいんだって思う。同じじゃなくていいって」

都立大山高校は確か自由で理数系に強いと言う校風だ。言われてみれば羽鳥に合っていると思えた。
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