リト・ノート
とにかく勉強しなくちゃと気持ちを切り替える。美雨の成績は学年トップクラスだけれど、別にすごく頭がいいわけではない。
中学受験にも失敗して地元の公立中に進んでいるのがその証拠で。人よりすごく努力して、いつも勉強してるだけ。
「羽鳥なんて努力してなさそうなのになぁ」
つい愚痴が口をついたことに自分で驚いて、慌ててノートに向かった。
羽鳥健吾は、同じクラスにいる数学の天才。練習がきついと評判の陸上部に入っていて、授業中はよく寝ている。それでもまた学年唯一の100点なんだろう。
突然甲高い声がしたのはその時で、美雨はハッと振り向いた。
「ミウモヒャクテントレテトウゼンデショ」
リトがしゃべった?
じっと鳥かごを見つめるけれど、リトはいつも通り素知らぬ顔で口をモグモグさせているだけだ。急にあんなにはっきりと話すはずはない。
少し早くて甲高く、でも人間みたいな声。
でも、なんて言ったの? カタカナの羅列のように聞こえた音を思い出して考えてみる。
「ミウモ、ヒャクテントレテ、トウゼンデショ?」
まさかね。
その後声がすることはなかったけれど、念のためリトの鳥かごカバーを早めの時間にかけた。試験範囲の最終チェックもそこそこに美雨も早く寝ることにした。
ゲンキ?とかオハヨーとかおしゃべりできるようになったらいいとは思っていたものの、あんな文章を急に話すわけない。
嬉しくない、そんなの。
空耳だったかもしれないと自分を納得させて、美雨はなんとか眠りについたのだった。
一晩経って考えると、夢だったかなと思いたくなる出来事だった。