リト・ノート
「俺水曜部活ないから、それまでに話す練習しといて」
また来るつもり?とびっくりして顔を見る。
「あのあと俺が話しかけてもだめだった」
「で、でも、私だっていつも話せるわけじゃないんだよ」
「びびってるとダメみたいなこと言ってたな。俺がいるほうがいいとか」
まるで美雨のほうが羽鳥に来て欲しがっているような言い方だ。
「羽鳥は怖くないの?」
「なにが?」
怒ったような鋭い目で聞かれて、答えられない。何が怖いのかなんてわからないけれど、怖いでしょう。
返事が返って来ないとわかった羽鳥は勝手に話を進めた。
「中園ってクラスのグループに入ってなくない? スマホ持ってないとか?」
「持ってるけど」
親にグループラインは禁止されている。面倒なことに巻き込まれないようにって。
「教えて。連絡取れないと面倒」
迷いのない物言いで、美雨が断れそうな雰囲気はどこにもない。言われるままに電話を差し出しながら、結局いつも人に従うだけの自分を感じた。
その夜メッセージが来たけれど、返信しなかった。なんと書いていいかわからなかったし、羽鳥のペースに巻き込まれるのもしゃくだった。口下手な美雨のささやかな抵抗だ。
迷った末、寝る前には着信メッセージごと削除して痕跡をなくした。