リト・ノート

「俺水曜部活ないから、それまでに話す練習しといて」

また来るつもり?とびっくりして顔を見る。

「あのあと俺が話しかけてもだめだった」

「で、でも、私だっていつも話せるわけじゃないんだよ」

「びびってるとダメみたいなこと言ってたな。俺がいるほうがいいとか」

まるで美雨のほうが羽鳥に来て欲しがっているような言い方だ。

「羽鳥は怖くないの?」

「なにが?」

怒ったような鋭い目で聞かれて、答えられない。何が怖いのかなんてわからないけれど、怖いでしょう。

返事が返って来ないとわかった羽鳥は勝手に話を進めた。

「中園ってクラスのグループに入ってなくない? スマホ持ってないとか?」

「持ってるけど」

親にグループラインは禁止されている。面倒なことに巻き込まれないようにって。

「教えて。連絡取れないと面倒」

迷いのない物言いで、美雨が断れそうな雰囲気はどこにもない。言われるままに電話を差し出しながら、結局いつも人に従うだけの自分を感じた。


その夜メッセージが来たけれど、返信しなかった。なんと書いていいかわからなかったし、羽鳥のペースに巻き込まれるのもしゃくだった。口下手な美雨のささやかな抵抗だ。

迷った末、寝る前には着信メッセージごと削除して痕跡をなくした。

< 20 / 141 >

この作品をシェア

pagetop