リト・ノート
家の近くの角で、電柱に寄りかかるように羽鳥が立っている。美雨に気づくと追いつくのを待たずに歩き出し、少し奥に入った中園家の玄関先で合流した。
一緒にいるところを見られたくない。そういう意志が伝わってきて、その配慮を喜ぶべきか感じの悪さを咎めるべきか美雨にはよくわからなかった。
「遅い」
怒った様子もなかったが、言いたいことは言うらしい。確かに随分待たせたはずだ。
「ごめんね。委員会の先生に会っちゃって」
「図書委員会って誰だっけ」
「沙織と私」とクラスの委員を告げると、「じゃなくて担当」と聞かれた。
「あ、町村先生」
「ああ、そりゃ話長いな」
陸上部の副顧問だと話しながら、羽鳥は玄関で「おじゃまします」と礼儀正しく靴を揃えて脱ぐ。
親のいない家に男子を呼ぶというのはどうなのだろう、と美雨は少しだけ気にしている。羽鳥のほうはなんとも思っていないようだ。
ママも成績の良い羽鳥のことは知っていて、勉強を教えてもらうことに特に疑問を持っている様子はなかった。