リト・ノート
「他に聞きたいことは?」
「なんで中園に話しかけたんだよ?」
「ナカゾノとは美雨のことか……ややこしいね。私はこの子を美雨と呼んでいる。君も美雨と呼ぶといい」
「よくねえ」
「なぜだ。名前を呼ぶのは禁忌か」
キンキ? 一瞬意味が分からないなりに、美雨は左手でメモを取った。あ、禁忌、忌まわしいことってことか。
「沙織のことは名前で呼んでるよね」
美雨もようやく口を挟んだ。話がおかしな方に転がっている気がするが。
「あいつは……小学校から一緒だし」
と羽鳥は言いよどむ。
「なるほど、常識にとらわれている。子どもなのに頭がかたいな、頭でっかちくん」
「そんな名前じゃねえよ」
「わかっている、君はハトリ、彼女はミウ。名前は1人に1つずつ」
歌うようにインコが言う。リトのペースだ。このままではまた疲れて終わっちゃいそう。
「私は美雨って呼ばれても別にいいけど」
「わかったよ。なんの話か忘れただろ。で、なんで美雨のところに来たんだよ」
いいよと自分で言ったくせに、羽鳥の口から出た自分の名前はなぜか美雨をどきっとさせた。
「君たちが呼んだんだ」
「君たち?俺とこいつ?呼んでないけど」
「そうか?夢だったかな」
「ふざけんなって。ちゃんと答えろ」
テンポのいいリトと羽鳥のやり取りは、しかし相変わらず要領を得ない。羽鳥はいら立ってきた様子だ。