リト・ノート

「疲れた?」

「ちょっとクラクラする。羽鳥はしないの?」

俺は平気、と言いながら羽鳥は壁に背を預ける。

「受験、だよな」

美雨は無言で頷いた。あまり話したくない話題だが、あえて避けるのもおかしいだろう。

「そんな奴いくらでもいるけどな」

「そんなにいないよ、全落ちなんて」

遅れて襲ってくる眠気と戦いながら答える。


東京には2月の頭に数日間続く中学受験日程がある。

第一志望校に受からなければ2日目以降に第二志望、第三志望、と長ければ5日間程度続く受験本番だ。人によっては午前午後と1日2校受験することさえあるハードな試験日程を組む。

第一志望に進める子供は三分の一程度。一般的には、滑り止め・安全校と言われる「確実に受かるはずの学校」の受験を組み込む。

全ての試験に落ちて地元の公立中に進学する「全落ち」は多くの中学受験生が恐れる事態で、その数はぐっと少なくなる。

あんなに勉強した数年間はいったいなんだったのかと思いながら、塾に通わなかったクラスメイト達と同じ学校に進学するなんて。

ありえない。想像すらしたことのない子が大半だと思う。


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