リト・ノート

夏の暑さがぬけた朝の道を学校に向かいながら、昨日の声のことで美雨の頭はいっぱいだった。

インコは喋ることもある。

でも、昨日のあれはそういうのとは違ったと思う。

でも空耳とも違うしと悩みながら歩いていたら、声をかけられたのに気づかなかったらしい。

「みう! おはようってば!」

耳元で大声を出されて、美雨は傍目にもわかるくらいに飛び上がった。

「お、おはよう、沙織」

「またなんか考えごと? 美雨ってぼんやりしてるのか賢いのか微妙なんだよね、ほんと」

「ぼんやりと考えごと、かな」

耳を軽く押さえながら、弾むように歩く沙織とそのまま並んでいくことになる。

交流関係の少ない美雨の大事な友達。

違うクラスで接点もない美雨に、入学してすぐ沙織から通学路で声をかけてくれた。

沙織は全く人見知りをせずいつも堂々としていて、見た目の可愛さと合わせて目を惹く子だ。

黒ゴムで結ぶべき長さギリギリ手前の髪を降ろし長袖シャツを軽く捲り、どこか高校生のように感じさせる大人びた姿。

そんな沙織とよく一緒に歩いていることに、校則通り長い髪を束ねた美雨はいつまでたってもどこか慣れない。

明るくおしゃれでかわいくて、男女問わず人気があるのに、なぜこんな目立たない美雨を気に入ってくれてるのかいつもわからないのだ。

< 3 / 141 >

この作品をシェア

pagetop