リト・ノート
1週間経つ前に、美雨の携帯に着信があった。通話にすると言ったくせに、テキストメッセージだ。でも、親に怪しまれない文面を選んできたことがわかる。
【こないだのノート貸してくれない?】
【いいよ。明日持っていくね】
返信しておいたので放課後にでも声をかけられるだろうという予想に反して、羽鳥は休み時間に美雨の席まで話しかけにきた。
「ノート、今いい?」
用意していたリト・ノートをかばんから出して「はい、なくさないでね」と渡す。「さんきゅ」と羽鳥もあっさり自分の席に戻っていく。
これだけなら目立つこともないだろうと美雨はほっとした。
しかし沙織と仲が良い真尋が、美雨の斜め後ろの席からつんつんと肩をつついてきた。
「なんのノート?」
「……数学。羽鳥は聞いてなかったみたいで」
「あー、あいつ寝てたりするよね」
それだけでさっさと終わりそうな会話だったけれど、真尋と話していたらしい沙織や由香も話に入ってくる。
「美雨と健吾って仲良いよね」
「え、そうなの? 頭いい同士?」
意外そうに由香が聞き、美雨が答えるより前に真尋が食いついた。
「もしかして美雨ちゃんてああいうのが好きなの?意外と似合うかも」
「ちが、そんなんじゃ」
「顔結構かっこいいよね?」
驚いた美雨の否定を真尋は気にとめていない返事だ。
「もうちょっと愛想があればなー、あと身長」
こそこそと声を落として由香が言い始めると、真尋も同調した。
「あー、思ってた。知ってる?羽鳥のお兄ちゃんて私立のすごい学校行っててしかもイケメンらしいよ」
「うそ、そうなの?沙織知ってる?」
「うん、省吾くんすごい頭いい。でもイケメンかなあ」
自分から話が逸れたことにホッとして、美雨は一息つく。学内一のイケメンは誰かと続いていく話を聞きながら、羽鳥にはお兄ちゃんがいるんだ、妹じゃなかったなぁ、とぼんやり考えていた。
それにしても、自分が男子と話すとあっという間に『好き』ということになってしまうのかと、さすがに驚いた。沙織だったら誰とでも仲良くしているから、羽鳥とノートを貸し借りしたところで目立たないはずだ。