リト・ノート
「数学の確認テスト、意味わかんなかった。今の単元やばいかも。美雨はできたよね?」
不安げに沙織は小首を傾げる。2年で同じクラスになってからは、勉強のことを聞かれることも多い。
「苦手なところがわかるなら、そこだけやれば大丈夫だよ」
沙織もやればできるほうなのだけれど、苦手な分野を割とすぐ諦めるところがある。数学のテストは明日だけど、まだ間に合わないこともない。
「美雨みたいに頭よくないもん。ねえ、今日午後ちょっとでいいから教えてくれない? 無理?」
「いいよ、もちろん。でも数学なら羽鳥(はとり)に聞いたほうがいいかも」
前方を1人で歩いている男子を見つけて言った。朝からどこか機嫌が悪そうに見える、つまらなそうな歩き方だ。
「無理だよー!健吾には『なんで俺が』って睨まれちゃうよ」
「沙織に頼まれて嫌がる人なんていないと思うけどな」
誰にでも気さくに話しかけるくせに、沙織は羽鳥健吾を苦手にしているらしい。小学校が一緒だったはずだけれどなぜだろうと思いつつ、美雨は突っ込んだことは聞けずにいる。
羽鳥はじゃれ合うように群れている男子とはちょっと違うから、そういうところが嫌なのかもしれない。
でも、同じように一人になりがちな美雨には声をかけてくれるところが、沙織のよくわからないところなのだ。
以前の塾が一緒だったのもあって、美雨にとって羽鳥は数少ない会話できる男子だった。と言っても特に仲がいいわけではないが。