リト・ノート


「結局さ、やるのはオレだってさ。なんかあいつたいしたことなくないか?」

声をひそめつつ羽鳥は文句を言う。リトは心が読めるらしいから聞こえてるのではないかと美雨は思うが。

美雨は今日の会話をノートに書き込みながら、「羽鳥が願いを叶えろって言ったからOKしただけなんだよ」とくぎを刺した。

「で、なんだっけ、秘訣。やりたいことを、全力で、結果を気にせずやる?」

「うん。三ヶ条だね」

羽鳥は本気らしく、黙って少し考えている様子だった。でも沈黙が気詰まりで美雨はつい声をかける。

「羽鳥は今年もリレー? 去年惜しかったよね」

当たり障りのない話題にしたはずが、無言で見られた。何かまずいこと言ったのかと美雨が目を瞬く。

1年アンカーの羽鳥は速かったが、上級生のところでチームは抜かされていたはずだ。

「足も速いんだってびっくりしたから。頭いいのは知ってたけど」

「俺、陸上部だって知ってる?」

「飛んでくみたいに速かった」

それを聞いて口角が少し上がるのを見て、また少し笑った、と美雨は思う。褒められると喜ぶって少し可愛げがある。
< 40 / 141 >

この作品をシェア

pagetop