リト・ノート

「ねぇ、もしかして健吾となんかある?」

沙織が続けて聞いてきたが、これも答えにくい質問だった。何もないといえば嘘になるけれど、この流れで聞かれるような恋愛的な何かはない。

それに沙織には前にも仲良いねと言われたけれど、どこを見て言っているのかよくわからない。

結局「羽鳥?」と予想外を装って聞き返すだけになった。

「誰にも言ってないんだけどね」と後ろに人が歩いていないことを素早く確認しながら言う沙織は、声を落としてそのまま続けた。

「私ね、実は健吾と前に付き合ってたの。振っちゃって、でもまたいいなと思ってる。勝手かな? 美雨が好きなら諦めるよ?」

「私は、ぜんぜん」

「ほんと? よかったぁ。美雨とは好きな人かぶりたくないよ」


突然の沙織の告白は、それこそ予想外すぎて美雨はそれ以上何も反応できなかった。

羽鳥と付き合ってた? 軽く告げる沙織の言葉を美雨は信じられない思いで聞いていた。

沙織は1年の時に目立つ先輩から告白されてしばらく付き合っていた。学校でも割と有名な話だった。

さすがだなぁ大人だなぁと思って、その頃も沙織の話を聞いていた。別れたと聞いた時も別世界な気がして、慰めの言葉もうまくかけられなかった。沙織はあまり気にしていないと笑っていたし。

でも羽鳥のことを何か聞いた覚えはない。あの羽鳥と?いつ?


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