リト・ノート
「ぼんくら、か」
そう言われたことは気になっているらしい。
できる兄がいる大変さは美雨にはどうにもピンとこない。自分に姉がいて代わりに女子校に行ってくれたらと想像してみると、むしろ同じ遺伝子だからお前も行けて当然だと言われるということなのか。
やればできるなんて、無責任な発言だったかもしれない。
しかし美雨がただのぼんくら呼ばわりした羽鳥は、既にちょっと変わって来ていた。愛想はないが不機嫌さが減った彼の周りには人が増えたし、美雨の前でも斜に構えた態度を取らなくなってきた。
先月の体育祭の活躍がきっかけなのは確かだとして、あれ以来沙織とまた近づいてることが嬉しいのもあるんだろうか。
そのことを考えると、喉に何かつっかえたような妙な気持ちになるのは確かで。でも、その人のことを思い出すだけで胸がキュンとするはずの恋というものとは違う気がした。