リト・ノート

「やっぱり気のせいだったかなぁ」

お風呂上りに髪を拭きながら、誰にともなく呟いてみる。

「ミウハテストガスキナノ」

その声にこたえるように発せられた声に、美雨はまた小さく飛び上がる。

また早口。意味を理解するのに少しかかる。ほんとにリトなの? 美雨はこわごわと鳥かごに目をやった。

「美雨は、テストが、好きなのか。これで、わかる?」

くちばしはもぐもぐ動いているだけなのに、明らかにリトから声がする。しかも突然ゆっくりになった。



怖い! 

それ以外何も考えられずに部屋を飛び出した。

いつになくドカドカと階段を駆け下りた美雨に驚いて、弟がリビングでぴょこんと立ち上がる。

「どうしたの、おねえちゃん」

「なに? 虫でも出た?」

「あ、うん、そう。あの、何か窓の外に虫がい たみたいで」

美雨は慌てながら答えた。弟や母には言えない。テストが好きなのかって、なに?

窓を閉めているならそんなに驚くことはないでしょう、美雨は怖がりなんだから、と母は笑ってキッチンに戻っていった。

美雨はそのままソファに座って、弟が見ていたアニメをぼんやりと見て心を落ち着けようとした。

早口でわからなかったと沙織に言ったのを、聞いていたんだろうか。ゆっくりと話して「これでわかる?」と聞いてきた。

あれは、「ゲンキ?」とか鳥が口真似をするレベルじゃない。美雨に質問してきていた。



怖い。怖い。

そう思いながら、美雨は部屋に戻ってさっと鳥かごにカバーをかけた。

明日もテストだし、カバーをかけたときリトはもう目を閉じて眠っているようだったし。

考えないで少しだけ最終チェックの勉強をして寝ることにした。大丈夫、聞き間違いかもしれない。そう自分に言い聞かせながら。

< 7 / 141 >

この作品をシェア

pagetop