リト・ノート
「やっぱり気のせいだったかなぁ」
お風呂上りに髪を拭きながら、誰にともなく呟いてみる。
「ミウハテストガスキナノ」
その声にこたえるように発せられた声に、美雨はまた小さく飛び上がる。
また早口。意味を理解するのに少しかかる。ほんとにリトなの? 美雨はこわごわと鳥かごに目をやった。
「美雨は、テストが、好きなのか。これで、わかる?」
くちばしはもぐもぐ動いているだけなのに、明らかにリトから声がする。しかも突然ゆっくりになった。
怖い!
それ以外何も考えられずに部屋を飛び出した。
いつになくドカドカと階段を駆け下りた美雨に驚いて、弟がリビングでぴょこんと立ち上がる。
「どうしたの、おねえちゃん」
「なに? 虫でも出た?」
「あ、うん、そう。あの、何か窓の外に虫がい たみたいで」
美雨は慌てながら答えた。弟や母には言えない。テストが好きなのかって、なに?
窓を閉めているならそんなに驚くことはないでしょう、美雨は怖がりなんだから、と母は笑ってキッチンに戻っていった。
美雨はそのままソファに座って、弟が見ていたアニメをぼんやりと見て心を落ち着けようとした。
早口でわからなかったと沙織に言ったのを、聞いていたんだろうか。ゆっくりと話して「これでわかる?」と聞いてきた。
あれは、「ゲンキ?」とか鳥が口真似をするレベルじゃない。美雨に質問してきていた。
怖い。怖い。
そう思いながら、美雨は部屋に戻ってさっと鳥かごにカバーをかけた。
明日もテストだし、カバーをかけたときリトはもう目を閉じて眠っているようだったし。
考えないで少しだけ最終チェックの勉強をして寝ることにした。大丈夫、聞き間違いかもしれない。そう自分に言い聞かせながら。