リト・ノート
6.キミノココロヲオシエテ
あれから、沙織は何も言ってこなかった。
最近由香がよく話しかけて来るようになって、美雨はなんとなく沙織のグループに巻き込まれるような形で過ごしている。沙織にはっきり無視されたり嫌味を言われたりもしていない。でも何かが違うと美雨は感じていた。
通学路で駆け寄ってきてくれること。ちょっとした家族へのグチをこぼすこと。集団の中で美雨を気遣うこと。
沙織から美雨への特別な好意、信頼。そう言うものがあったんだと失って初めて気づいた。
羽鳥は何も知らないまま機嫌がいい。リトと話が弾んでいる。
「信じられないんだけど。親が塾に行く意味あるかって聞いてきた。期末が良ければ行かないでなんとかなりそうなんだよ。引退してからでもいいって」
「君の観念が現実を作るんだよ」
「それってあれだろ? 引き寄せの法則ってやつ。でも俺別にこんなの願ってないけど」
「頭は回るな、君は。そういうところは変わらないんだな。波動が上がればそれにふさわしいものが引き寄せられる。言葉にして願う必要もないんだ」
「なるほどな。波動上がるって具体的にどうすんの」
「君のために単純に言えば、気分のいいことをすることだ。例えば、羽鳥はこの部屋に来ると気分がいい。僕は美雨と話すと気分がいい。美雨はピアノを弾きながら歌ったり、部屋を暗くして夜空を見上げたりすると気分がいい」
「やめて!」
リトと羽鳥が楽しく話すのは喜ばしい変化だが、美雨のプライバシーについて勝手に話すのはやめてほしい。