リト・ノート
「沙織にリトのこと話してみたい。呼んでいいかな」
この状況をどうにかしなければと思っていても、美雨1人でうまく伝えられる自信はなかった。
「なんで? あいつうるさいし、黙ってられなそう」
「付き合ってたんだよね?」
「……だったらなんだよ」
鋭い目線で言われて怯みそうになる。でも、羽鳥のことは怖くない。
「沙織に、羽鳥を好きなんでしょって疑われてると思う。そういうの嫌なの」
「そんなの、違うって言えばいいだろ」
「沙織とお互いに好きなのに、私のせいでゴタゴタしてほしくない」
「別に好きじゃない」
「でも、振られたんでしょ?」
踏み込み過ぎだとわかってはいたが、美雨にはこうするしかなかった。羽鳥は渋々と言った調子で目を逸らしながら答える。
「女子と付き合うってどんな感じかなって思ったんだよ。でも別れるって言われたし、今更関係ない」
「どんな感じかなって、それだけ?」
沙織に聞いた話以上に信じられない思いだった。
「省吾に、彼女ができたみたいで」
間が空いた後の羽鳥の返答に、美雨は噛み付くように反応する。
「そんなの沙織に悪いと思わなかったの?」
「あいつだって先輩と別れてイラついてただけなんだよ」
「そんなことない。沙織はそんなんじゃないと思う。お兄ちゃんに自慢したいとか」
「俺じゃ自慢にならないし?」
自虐的な笑顔は、羽鳥らしくなくて嫌なものだった。
「羽鳥って、最悪」
何か言おうと口を開いて、そのまま羽鳥が言葉を呑み込んだ。
余計な口を挟んでいる美雨を罵倒してこないだけ、羽鳥の方が大人だと思えた。