リト・ノート
「名前で呼ばれてたよね?バトルの時。健吾ってさ、付き合ってるの言いたがらないでしょ。私の時もそうだったからわかるよ、そういうの」

「違うの、あれには訳があって」

小首を傾げて沙織が言葉を待っている。嘘をつきたくない。

「私の、と、友達が。羽鳥とも仲良くて、ややこしいから美雨って呼べばって羽鳥に言って、それで羽鳥は嫌がってたんだけど」

「友達って、女子? うちの学校?」

美雨は首を振るが、話し出したもののなんと説明すれば伝わるのかわからない。「あのね」と言ったまま言葉の出ない美雨に沙織が質問で促す。

「その人には美雨って呼ばれてるんだ?美雨はなんて呼んでるの?」

浅い息を吸い直して、思い切って言う。

「り、リト」

「……あー、そういうこと。なんだー」

一瞬驚いた沙織が、ホッとしたような笑顔を見せた。

「あの、沙織にはちゃんと説明したいと思ってたけど、わかってもらえるか自信がなくて。おかしいと思われたくなくて」

意外にも察しのいい沙織に驚きつつ早口で言い訳を始める。羽鳥がいなくても説明できるかもしれない。

だが沙織は矢継ぎ早に、予想外の方向に応じてきた。

「言ってくれればいいのに、それでなんだ?苗字は? なにつながり? 塾?」

「え? あの、そういうんじゃなくて、友達って言っても」

「ごめん、そうか、うん。じゃ、聞かなかったことにする。ね、だからちょっとだけ協力して?健吾が今好きな子いるか聞いてみて。そのリトくん経由で聞いてもらってもいいし。お願い!」

両手を合わせて沙織が拝む。何かやっぱり変だった。美雨の話をどこか遮るように話していた。

リトという別の友達がいると思ったんだろう。とにかく羽鳥と付き合ってなければよく、美雨のことには興味がなさそうだ。

美雨には「うん、わかった」という以外の返事が思いつかなかった。

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