リト・ノート
この展開に困ってはいた。誰かに話せたらとは思った。
呼んだつもりはなかったが、美雨が学校から1人歩いて帰る途中で突然声が聞こえてきた。
まさかリトが部屋から出ている? 振り向いて空を見上げるが誰もいない。
(大丈夫、リト本体は部屋にいて安全だよ)
「どういうこと?」
質問には答えず、リトは逆に質問してくる。頭の中に直接響いてくるような声と、脳内で会話しているようだ。
(美雨はまだ、羽鳥に怒ってる?)
(だって。付き合ってみたかっただけとか)
(そういう人を他に知らない?)
なんのこと?と美雨は立ち止まった。
(沙織は先輩と『付き合ってみる』と言った。なんで知ってるのかと君が言うなら、僕は君の記憶に同調できるからだ)
思い返せばそうだ。そう言っていた。でも。
(羽鳥は失敗したかもしれない。後悔しているかもしれない。君は人の失敗を責めるのかい?)
(羽鳥が何考えてるのかリトにわかるの?)
(わかるよ。君に教えることもできる。それが君が心から望むことなら)
(……そんなの望んでない。勝手に心を覗くって、それこそ最低でしょ)
(そうかな。だったら君の心を教えてあげようか?)
私の心?なんでリトに教えてもらわなくちゃならないの?と聞く前にリトが言った。
(羽鳥が沙織を好きではないと聞いて、どう思った?)
ふいをつかれて、美雨は怖がって逃げることもできなかった。 心の奥の汚いところにグサリと爪を立てられたようだった。