リト・ノート
試験が終わった帰り道、美雨の心はだんだん重くなっていた。

家に戻ればリトがいる。また妙なことを言い出さないかとびくびくしながら午後を過ごすのかと思うと憂鬱。

沙織やクラスの女子は、一度帰宅した後遊びに行く約束を交わしているようだった。

もし「私も行ってもいい?」と沙織に聞く勇気があれば、きっとダメとは言われない。他の子だって、沙織がOKすればきっと入れてくれる。

でも、大人数でのカラオケやファストフードでのおしゃべりが美雨は苦手だ。頷くのが精いっぱいで早いテンポの会話にうまく参加できないし、狭い部屋での大音量は頭がクラクラして気持ちが悪くなる。

「なんで美雨ちゃん来ちゃったのかなぁ」とまで口には出さないにせよ、周りが盛り下がることは経験上わかっている。

嫌われているわけではないが、積極的に関わるほど興味も持たれない。それがクラス内での美雨のポジションだった。




ぼんやり歩いている足に柔らかいものが当たる感触で足が止まった。ふくらはぎに、白くてふわふわした子犬が飛びついてきていた。リードはつけていない。

「どうしたの? ひとり?迷子?」

その場にしゃがみこんで話しかけてみる。美雨は動物に好かれやすくて、こういったことは時々ある。だからこそリトを譲り受けたのだ。

くうん、と尻尾を振って鼻をこすりつけてくる子犬を撫でながら、追いかけてくる人はいないかとあたりを見渡した。
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