リト・ノート
(君たちがなぜここにいるか知っている?)
体を固くした美雨に構わず、頭の中の声は話を変えていく。
(体験しにきたんだ。何も知らない存在として、この世界を体験しにきたんだよ。失敗も、全部。どんな体験も貴重だよ。新しく体験してちゃんと忘れること、それを求めて来たんだ)
どうして私にそう言うことを言うの?羽鳥には言わないのに。と考えた心は勝手にリトに伝わっていく。
(僕には彼を助ける義理はない。君と約束したんだ。忘れてしまっただろうけど。鳥の姿で来る気はなかったんだが)
少し寂しそうに思えた気配は、そこでふっと消えた。
わからないなりに何か大切なことを言われたことはわかって、体験のくだりの言葉だけノートにはメモした。
詳しいことは書けなかった。書きたい内容ではなかったし、それに1人で歩いているときに頭の中で話すなんて異常だ。
羽鳥にだって知られたくなかった。
都合の良いようにあちこちに隠し事ばかりして、最悪なのは自分だと、美雨の心は固く縮こまるばかりだった。