リト・ノート
期末は明日からだというのに、羽鳥はリトに会いに来ていた。その割に取り立てて聞きたいことがあるわけではないらしく、美雨が会話している。
「リト、テストのことを言わなくなったのはどうして?」
「君が怖がる姿を見てみたくてね。今はもうテストの結果ばかりを考えてはいないから、それほど怖がらないだろう」
「じゃあなんのこと考えてるわけ?」
羽鳥が聞いた言葉に、ダメ!と心で叫んだ。
うわっと羽鳥が勢いよく手を離す。
「声でかすぎ」とぶつぶつ言い、もう勉強しようとそのまま話を終わらせた。羽鳥は気づかなかったらしいが、美雨は声を出していなかった。
離された手を見つめながら、最近の出来事を思い出す。
1人でもリトと話せる。そこにいなくても頭の中で話せる。声を出さなくても羽鳥にまで伝わる。
いつの間にか力が強くなってきている。このままどうなってしまうのかと、不安が喉にせり上がって来ていた。
「どうした?」
「手、痛かった」
不安を誤魔化すように美雨は手を引っ込め、羽鳥に向かって顔をしかめて見せた。
自分の手をちらりと見た羽鳥は、その左手を自然な流れで伸ばし「ごめんな」と美雨の頭を軽くなでた。
「べ、別にちょっとだけだから」
慌てて立ち上がってリトからは目を逸らしながら鳥かごを片付ける。胸の鼓動を悟られないように無意味に水やエサのチェックをした。
なんでいつもこんな風に、と思ってから『いつも』ってなんだろうと自分でも不思議になった。手はつないでいるものの髪を撫でられたことなどないはずだ。でもなぜか前にもあった気がした。
「美雨、社会のノート見せて」
どうやら美雨のまとめノートに便乗しに来たらしい羽鳥は、もう淡々と勉強道具を出している。美雨も勉強に集中することで、不安や戸惑いがごちゃ混ぜになった気持ちを紛らわせた。