リト・ノート
帰り際、意を決して羽鳥に告げる。『好きな子いるの?』なんて沙織に頼まれたような話はできないから、せめて沙織を裏切らないように。
「沙織に嫌われたくない。ちゃんと話したい」
「わかったよ。沙織も呼びたきゃ呼べば」
「でも、手をつながないと話せないのが困る」
羽鳥は怒ってはいない。美雨が困っているのはわかってくれた様子だった。
「羽鳥だけで話せるようにならないかな」
ため息をついた羽鳥は、どさっと床に座り直して無言でリト・ノートをめくる。長い時間が過ぎた気がした。
「頭がいっぱいだからできないんだったよな、俺。頭からっぽにすればいいのか。瞑想かな」
会話の途中に手を離してみたりして 、2人で何度か試みたことはある。羽鳥にはできなかった。無理を言っていることは美雨にもわかっていた。
でも「可能性はある」とリトに言われてもいるのだ。
「やってみる。俺が1人でできるようになったら、面白いかもしれないしな。お前も気が楽になる?」
なぜか優し気な声で、美雨を覗き込むように羽鳥は聞く。
「もうちょっとだけ、付き合って」
言われて一瞬、息を呑んだ。
羽鳥が嫌いだと思った。時々、小さい声で話すところが嫌い。何の気なしに、じっと見てくるのも嫌い。言葉の使い方がおかしいところも大嫌いだ。