リト・ノート
冬休みに入って、美雨も合唱の楽譜を練習してみた。部屋で歌いながら弾いていると、弟が入って来て「その歌知ってる」と少し一緒に歌った。
こういう感じなら大丈夫なのは、たぶんピアノの腕に注目されてないからだろう。母もピアノの音を聞いていると気づいたときには、突然つっかえることがある。
「ゆうと、お姉ちゃんね、最近リトと話せるようになったの」
弟になら冗談で済ませられるはず、とちょっと言ってみた。手をつないでリトに話しかけてみるも、何ごとも起こらず「だめじゃん」と保育園児にがっかりされただけだったが。
1人の時か、羽鳥といる時。なんでそうなってるのかわからない。もし沙織はつながれなくて、2人で嘘をついてると思われたら。
深くは考えたくないことだった。
リトとは何度か1人で話したが、「羽鳥にできる可能性はある。沙織がつながる可能性もある。でも確かなのは美雨だけかな」とどこか不安にさせることを言うので、突っ込んでは聞けなかった。
冬休みに入ってからは羽鳥に会っていない。羽鳥は年末年始はおじいちゃんの家に行くらしい。美雨の親族はみんな東京付近に住んでいるので、年が明けてから集まる。日帰りであちこちに動く、せわしない予定になる。
今年は2日だけぽっかりと予定が空き、沙織に誘われてバスで大きな神社にお参りに行くことになっていた。
年が明ければ、毎日用事があって余計なことを考えずに過ごせるはずだ。そのことが楽しみなようで、冬休みが終わるのをどこかで待っている自分を、美雨はピアノを弾くことでやり過ごした。