リト・ノート


別に後悔はしていないが、元カノの友達という関係にある美雨のことを思い出すと、八つ当たりもしたくなる。

中学から男子校である省吾には通じない悩みだろう。別に通じなくて構わないけれど。

デートでもなんでもないし、全然かけらもエロくないしと心でつぶやいて、健吾も山積みになったマンガに手を伸ばした。

「健ちゃん、コロのお散歩行くよ!」

小学生組が飛び込んできてそれも阻止され、囲まれて「早く早く」と立たされた。この集まりは女子ばっかりだ。

ちんたら歩くのめんどくさい、どうせなら走って行きたいと思うがもちろん聞き入れられないだろう。

「いってらっしゃーい。がんばれモテ男ー」

と年上グループに緩く見送られ、小さな右手をしっかりつないできた10歳児と連れ立っていく。

あいつも親戚の兄ちゃんと手つないだりしてるのかな、とまた彼女のことを思い出した。



1人でリトと話せるようになって欲しいと美雨に真剣な面持ちで頼まれたことはずっと気になっていた。

単独でしゃべれるなら、聞きたいことは色々ある。美雨が怖がって聞きたがらない類いのリトの正体とか思惑とかも含めて、いつかは聞きたいと思っていた。

頭を空っぽにすればいいらしいが、トラックを走ってる最中はともかくあの部屋でそういう状態になるのは難しいかなと健吾はなんとなく思う。

やたらに女子っぽい白い家具で統一された部屋。ピアノまで白い。女子の部屋をそんなに知ってるわけではないけれど、少なくとも沙織は壁のところどころに作り物の蝶が飛んでいる部屋に住んではいなかった。

< 88 / 141 >

この作品をシェア

pagetop