リト・ノート
「なにやってんの」

だがキョロキョロする美雨に目を留めたのは、制服姿で1人歩いている羽鳥健吾だけだった。

不機嫌な声に責められたような気がしたが、羽鳥は誰にでもこんな態度だ。

「この子、迷子みたいなの」

興味の薄そうな目で子犬を見下ろしてから、羽鳥はどうでもよさそうな声で大事な情報をくれた。

「なんか名前叫んでる声聞こえたかもな、さっき」

「ほんと?どっちのほう?」

「どうだろ、あっちかな」

適当そうに言いながらも、顎で方向を合図すると歩き出す。美雨は慌てて子犬を抱き上げてついて行った。




しばらく行くと美雨にも中年女性らしい声が聞こえてきた。「モコ―?」と名前を呼びながら歩いているようだ。

声に反応して、子犬はぴょんっと美雨の手を離れると声の聞こえたほうに駆け出した。角を曲がった向こうから「モコ!どこ行ってたの!」と嬉しそうな声があがっている。

会えたんだ、と自然と笑みがこぼれる。本格的に迷子になってしまうと飼い主に出会うのはなかなか大変だから、すぐに見つかってよかった。
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