リト・ノート
男女合流してメンバーが膨れ上がり、この人数で一緒に行動するのめんどくさいなと思い始めた頃、松尾由香が「あれ、沙織じゃん!さおりーー!」と声を上げた。
「あ、美雨ちゃんも一緒だ」
「こっちこっちー!みんないるよ!」
と呼び寄せている。沙織と美雨は2人だけで来ていたようだ。
沙織が明るく手を振り、それでもこちらに来る様子はない。美雨が2人以上の人間とはまともに話せないからだろうな、と健吾は思った。
しかしお構いなしに駆け寄った女子たちに巻き込まれ、結局は大集団に2人は吸収されてしまった。
髪巻いてるんだねと松尾に触られている。健吾にはよくわからないが少し化粧もしているようで、とにかく「かわいい!似合う」と女子たちが騒いでいた。
「沙織がやってくれたの」と嬉しそうに美雨がはにかんでいる様子を眺めていると、同じ方向を見ていたらしい山根と肩がぶつかって苦笑いされた。
どうせ今話しかけてもろくに返事はないし嫌がられるからまぁいいか、と健吾は近寄らないことにした。
美雨は2人でいる時とクラスで喋る時の態度が違いすぎる。健吾もそれなりに距離をとってはいるが、美雨が目も合わせないのはさすがにひどい。
俺も沙織と付き合ってるときあんな感じだったのかな、と健吾は初めて自分の態度を顧みた。立場が逆と考えれば、向こうはたいして自分を気にしていないってことだ。付き合ってるんじゃないから当然なのかもしれないが。
美雨が沙織を裏切っているような罪悪感を持っているのは知っている。でも健吾を拒絶できないことも。
リトのことを1人で抱え込む勇気がないことにつけこんでいる。流されやすい性質を利用している。そう言う自覚はあった。