リト・ノート
バトルのときも人前に出てたし緊張したって大丈夫だよ、とりあえず合わせてみよう、とどんどん流されていくのを美雨では止めることができなかった。

助けを求めるように周りを見回したが、沙織も羽鳥もなぜかいない。

「沙織は?」

「さっき出てったよ。羽鳥が追いかけてった」

山根が出口を指差し、クラスの空気が少し変わる。

「まずいんじゃないの、やっぱり。冬休みも練習してきてるんだよね」

「でも自分から代わってって言ったんだからさ」

「沙織じゃなきゃって引き止めて欲しかったんじゃないの?」

「自分中心じゃないと気が済まないところあるからねぇ」

「羽鳥になだめに来てもらいたかっただけだったりして」

「それあるかも」

女子達が意外に沙織を悪く言い始めたのを断ち切るように、美雨はできるだけの声を出した。

「私、弾かないから」

「沙織に気を遣う必要ないって。弾けそうにないらしいよ」という声にも負けないように強く言う。

「弾きたくないの。人に合わせて弾くなんてできないし好きでもないの」

珍しく言い切る美雨に、微妙な雰囲気で皆が注目した。

「ごめんなさい、でもどうしても嫌なの。沙織は、私が嫌なの知ってるから久しぶりなのに練習してくれて。誰かがやらなきゃいけないから、沙織は優しいから」

羽鳥に対する時のように強い声は出せなかった。ワガママだと言われるのを覚悟したけれど、誰もなにも言わない。
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