リト・ノート
沙織を追いかけていった羽鳥はやっぱり優しいと思う。それでも沙織を好きなわけではないと言うんだろうか。美雨にも気まぐれに見せる優しさがあり、どこに本心があるのかわからなかった。

とにかく美雨にとって大事なのは沙織のほうだ。羽鳥なんかじゃないはずだった。





「美雨が言ってくれるほど、優しくなんかないよ」

放課後に謝ろうとした美雨は、逆に沙織に謝られていた。美雨は性格が良すぎるんだと沙織は言う。

「自己中だからなぁ、私。みんなもそう言ってたでしょ?」

廊下にも声が聞こえていたんだ、と胸がぎゅっと縮こまる。

「健吾は直接言ってくれるんだよね。変に拗ねてないでちゃんとやれよって言われちゃった。そういうところが好きなの」

切なげな顔をしてまっすぐに言い切れる沙織をうらやましいと思った。

美雨は性格がよくなんかない。都合の悪いことを隠し、言いたいことをはっきり言うこともできずいい人ぶっている。

それでも、ちゃんと「弾きたくない」と言った自分には少し満足していた。沙織の友達でいたい。そういう気持ちもちゃんと示していこうと決めた。

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