寵妃花伝 傲慢な皇帝陛下は新妻中毒
竜樹の母は身分の高い貴族の出だったが、竜樹を産む前も、産んだ後も、なんと二十年近く、皇帝に自分とほかの妃とではどっちが愛されたか、特別に思われているかと、どうやっても確かめようのない寵愛をめぐって争い、そして死んでいった。
そんな光景を物心ついてからずっと見続けてきた竜樹は、自分の後宮にいる妃たちを等しく人間として扱わなかった。
名前などひとりも呼んだことはない。
等しくただの女であり、それ以上でもそれ以下でもない。
そんな、母や後宮にうずまく怨念の中に生きていた竜樹からしたら、藍香の願いなどあまりにも子供じみていて、いきり立った体が一瞬で萎えるのも当然だった。
(特別な女など、この世にはおらぬ)
たとえそれが妃であっても、考えは変わらない。
竜樹は生まれながらにして、人をかしずかせてきた側の人間だった。
一瞬興味を引かれたのは事実だが、この初夜のこともすぐに忘れるだろう。
「女に振り回されるなど、阿呆のすることだ」
竜樹はゆっくりと息を吐き、そのまま長い廊下の柱にもたれて空を見上げた。
(つまらないことに心を乱されていては、国を統治することはできん……)
それでもなぜか、藍香のまっすぐな目がまぶたにちらついて離れなかった。
【寵妃花伝 傲慢な皇帝陛下は新妻中毒・試し読みはここまでとなります】