寵妃花伝 傲慢な皇帝陛下は新妻中毒
「っ……」
首筋に触れた手は、ひんやりと冷たかった。その冷たさは、皇帝陛下そのもののような気がする。
(やっぱり怖いよ……いや、でもがんばらないと……!)
だが慣れないものはしょうがない。結局、触れられるたびに藍香が驚いてビクッと体を震わせるので、竜樹はククッと喉を鳴らすようにして笑う。
「なんだ。その反応は」
「もっ……申し訳ありません」
内容はとりあえず置いておいて、ようやく会話らしい会話ができたと、思ったのもつかの間――。
「もしかして男を知らんのか。田舎者は、陰陽を交えるくらいしか、楽しみがないと思っていたが」
竜樹にからかうような言葉をぶつけられて、頬にカッと熱が集まった。
陰陽を交えるというのは、いわゆる男女の行為のことだ。
女性は陰の気を持ち、男性は陽の気を持つ。男女が愛し合うということは世界の成り立ちと同じ。偉大な自然の摂理だ。だが目の前のこの不遜な皇帝陛下は、田舎者だからそれくらいしかやることがないのだろうと、言っている。
(なにそれ……私が乙女ではないと思っていたってこと?)
純潔を疑われ、藍香は息をのむ。
どう考えても馬鹿にされている。
最低な侮辱の言葉に完全に頭に血がのぼっていた。
「なっ、なんてことをおっしゃるのですか!」
そして相手が皇帝陛下ということを忘れ、反発してそんな言葉を叫んでしまっていた。
ここが藍香の故郷であったなら、少々気の強いところがある藍香は、さらに平手のひとつでも飛ばしていたかもしれない。けれどここは都の中心、皇帝陛下の寝所だ。たとえ非がなくとも罰せられるのは藍香ということになる。
それでも藍香は、ここは自分が怒っているのだという態度を取るべきだと思った。
悔しさに吐き気を覚えながらも、必死にグッと息をのみ、怒りをこらえる。