寵妃花伝 傲慢な皇帝陛下は新妻中毒

 だが竜樹はそれほど気にならなかったようだ。


「なかなか元気がいいな」


 むしろ藍香の反発を軽く鼻で笑った次の瞬間、身を乗り出すようにして寝台の藍香の上にのしかかっていた。そして藍香の、胸の上に置いていた手首が乱暴に掴まれ、頭の上に押しつけられる。


「あっ……」


 突然のことに思わず身をよじるが、竜樹に掴まれた腕はびくともしなかった。


「――ふむ」

(見られている……!)


 今の藍香は、自分の意志では身動きひとつ取れなかった重い花嫁衣裳を脱ぎ、薄物一枚という姿だ。ちなみに天女の羽衣のような生地でできた薄物は、小さな村生まれの藍香には初めて見る美しさだったが、よくよく見れば体の線はひと目でわかるし、皇帝陛下にも息をして上下する胸のあたりを観察されているような気がして、全身が火をつけられたように熱くなる。

 だが自分が見られているのと同様に、藍香の目にも、皇帝の姿があらわになった。
 その瞬間、藍香は緊張も忘れて、竜樹に魅入られていた。


(この方が皇帝陛下……尊き麒麟の巫女の血を引く、竜樹様……なんてきれいなの……!)


 意志の強そうなまなざしがなによりも目を引いた。
 竜樹の目は透明感のある緑色をしていた。

 桐翼(ほうよく)は宝石の産地であり大変豊かな国だが、この国で採れるどんな宝石を並べても、皇帝陛下の瞳の輝きには劣るだろう。
 その美しい瞳に金色の髪がチラチラと反射して輝いて、月明かりの中、その瞳と黄金色の髪の輝きはあまりにも異質としか思えない。


(尊い麒麟の巫女の血を引く皇帝陛下は、常人にはない色の髪や目をしていると聞いていたけれど、本当にそうなのね)


 彼の緑の瞳に吸い込まれるように見とれていると――。
 竜樹は藍香のあごに指をかけ、くいっと持ち上げ突然、口づけてきた。

 着物に焚きしめている香の匂いなのか、ふわりと甘い香りが藍香を包み込む。


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