想いの行方
「アイツ、本当に男を見る目がないな・・・」



人気のない部室の薄暗い中で小さく呟いて携帯の電源を切ると
その画面を切なく見つめたまま、アキラはため息を落とした。
らしくないその様子も、ため息の理由も聞かなくてもわかる。


今すぐ駆け寄ってその背中を抱きしめたい。
湧き上がる衝動のままにそれができたらどんなにか・・・と
胸が詰まるような切なさを小さく吐いた息とともに吐き出して顔を上げ
何くわぬ顔で愛しい背中に明るい声をかけた。



「吾郎くん、見つかった?」
「ん? ああ。お前の予想通りだった」

「そっか。やっぱり!も~しようがないなあ。
来たらまず『グラウンド20周!』だね」



どこかの部長さんみたいに、と笑う私に
背中をむけたままだったアキラが振り返って鼻で笑った。



「甘いな。100周だ」
「可哀想に」
「同情なんてしてやることはない。自業自得だ」



相変わらずアキラは他人に厳しい。
でも自分にもそれ以上に厳しいから誰も文句は言わない。
傲慢なほどの自信は見せ掛けでもなければハッタリでもない。
恵まれた家庭環境と天賦の才能に驕っているのでもない。
努力に裏打ちされた本物だ。その努力を他人に見せないだけ。



そして憎まれ口を叩きながらも面倒見がとてもいい。責任感も強い。
総勢100余人もいる部員の一人ひとりの顔と名前を全部覚えている。
おまけにレギュラーメンバーのプレイスタイルやその得意と弱点はもとより
その倍の人数はいる準レギュラーメンバーについても同様の把握している。
メモやノートに書き込んであるわけじゃない。全て頭に叩き込んであるのだ。
部長たるもの当然だと、涼しい顔でさらりと言うが並大抵のことじゃない。



男として完璧。 そう言っても過言でないアキラの
一体どこが気に入らなかったんだろうか・・・あの人は。



「藤咲?」
「・・・え?!」
「どうした?」
「ん?・・あぁちょっと、考え事」
「ボサッとしてるなよ」



オマエの用はこれだろ、と差し出された用紙は
備品をオーダーするためのチェックシートだった。
発注前の最終チェックとサインを頼んでおいたものだ。



「ごめん。ありがと」
「修正したからな。オマエの控えも差し替えておけよ」
「うん、わかった」



印の付けられたその修正箇所を目で追っていると
少しトーンの低い声でアキラが私を呼んだ。

< 1 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop