想いの行方

昔から明るくて優しくて誰からも慕われる自慢の姉だった。
誰よりも大好きでどこに行くにもくっついて行った。
そんな私を姉は疎ましがる事もなくとても可愛がってくれた。
穏やかで幸せな毎日が続く事が自然で当たり前だと思っていたのに・・・



私が高校を卒業すると同時に両親が離婚した。
私にはまさに青天の霹靂だったが
もう半年も前に結論は出ていたの、と母は静かに言った。
受験を控えた私を気遣って合否がでるまで内緒にしていたのだと。



母親の起こした事業が軌道に乗り業績を一気に上げたのが切欠で
夫婦の間に亀裂が生じ、広がり、とうとう修復不可能になっての離婚だった。
憎み合ってのことじゃない。円満離婚だよ、と
父は薄く笑って私の頭を撫でた。



両親のどちらにつくかは姉と私、それぞれの判断に任された。
当然姉妹そろって母の元へ行くものだと思っていた私に
姉は言った。私はお父さんのところへ行くね、と。
「だってお父さん、ご飯作れないくせに 家ごはんが好きでしょ?」
そう笑いながら、お母さんをよろしくねと私を抱きしめた。



姉とは名字も変わり住む所も変わったけれど
電話やメールでの連絡はもちろんのこと
娘である私達はどちらの家にも頻繁に行き来をした。
大学も姉と同じだった。
でも名字が変わった後で入学した私と姉が姉妹である事を知る者は
姉の近しい友人くらいで、他には知る者はいなかった。



実の姉妹である事を隠すつもりは姉も私も全くなかったけれど
事情を一々説明するのが面倒なので公言もしていなかった。
なのに不思議とこういう事は知れるのが早い。
へぇあの綾瀬の妹か、と何度となく言われ
私は大学での姉がどういう存在なのかを知った。



そんな姉にアキラと吾郎くんが恋をした。
接点は高校。姉は二人の通う高校に教育実習に行ったのだ。
なーんか、やたらなついてくる生徒がいるのよ、という話は
聞いたことがあった。でも実習が終わってからも会っていたのは知らなかった。
全てを知らされたのは私が大学に入った後。姉が吾郎くんを選んだ後だった。
私が大学のテニス部に入ってアキラと吾郎くんと知り合ったのも同じころだ。


側にいてあげなくちゃって気になるの、と姉は はにかんだ。
これまで一緒に暮した私が見たこともない眩しい笑顔だった。



姉と吾郎くんの相思相愛なバカップルぶりは
当初から呆れるほどで、微笑ましかった。妬む気にもなれなかった。



でも今は違う。今は姉が憎いとさえ思う。



アキラにこんなにも切ない顔をさせて
こんな事を言わせるのだから。
あれから2年近くの時間が過ぎたというのに
姉はまだアキラの心を捉えて放さない。



そしてそんな姉の面影を私に見ているアキラが
出会ってから今日まで、私がひっそりと抱いてきた彼への純粋な思いを歪ませた。


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