僕が小説を書くように
彼女の事情
 一週間が経った。

 僕は松島恵を、メールで研究室に呼び出した。
 彼女の話をきく必要があった。

 彼女は、了解しましたという短い返事をかえし、ここにやってきた。

 今、僕の前に、テーブルを挟んで座っている。

 当初、彼女はひどく緊張した様子だった。
 僕の顔をまともに見られないくらい、おどおどしていた。

 今の彼女は、もうすっかり委縮しているようだった。
 肩をすぼめ、長いまつげを伏せて、自分の手元をのぞきこむようにうつむいている。

 これは、僕が部屋に招き入れてから、なにも言葉を発していないせいだ。

 別に、意地悪をしているわけじゃない。
 彼女を観察するのに忙しかったのだ。

 今日も彼女は、どことなく野暮ったい格好をしていた。
 化粧はごく薄い。色白なのは、ファンデーションを塗りこめているわけではなさそうだ。

 残念な子だ。
 それなりのドレスを着れば、じゅうぶんに美しくなる素質はあるのに。

 僕が視線でなぞるたび、彼女は身を縮める。

 これじゃ、視線でいじっているみたいだな。
 俺はSっ気があるからな。

 それにしても、この子がそんな子だとは思えない。
 さんざん焦らしてから、口を開く。

「きみさ」

「は、はい!」
 彼女は、飛び上がらんばかりにして返事をする。

「僕の手紙に書いてないことが、あるだろう?」
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