僕が小説を書くように
「別に、恥ずかしがる必要はないよ」

「えっ……?」
 彼女は、今日初めてこちらに視線を向けた。

「そんなことがあったんなら、誰だって少なからず人間不信になるだろ。
 きみは女性なんだし、まだ若いんだし、なおさらだ。
 作家になる、小説を書くという感性を持ち合わせている、ある種の証拠でもあるし。
 それにきみは、ひきこもっていても、考えることはやめなかったんだろう?」

「あっ、はい……」

「ウェブに上がってる小説、読ませてもらったよ」

「えっ!?」

「これだけ自分を批判できる精神を文章にアウトプットできるなんて、大したもんだと思うがね」

 彼女はみるみるうちに赤くなった。

「それは……自分用に書いたもので……」

「だから、恥ずかしがるなって。
 小説家にかかわらず、クリエイターってのは、精神的ストリッパーなんだよ。
 そのなかから、共感してもらえるものや、表現したいものを拾い上げて、商品にするんだ。
 いいか? ストリップと、職人の技巧を持ち合わせたやつだけが、生き残れるんだ。
 この世界はそういう世界なんだよ」

「……はい」

「それに、きみの文章、良くなってるよ」

「ええっ……」

「受賞作より、レベルが上がってる。
 このまま磨いていけば、きみはもっとうまく書けるようになる」

「はぁ……」

「これでも、売文生活長いんだぜ?
 僕が言ってるんだから、もうちょっと信用しなさい」

「ありがとうございます……」

 彼女はまだ、こちらの言葉を信じ切れていないようだった。
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