僕が小説を書くように
 翌週、僕は彼女を研究室に呼び出した。

 彼女は以前に比べたらリラックスしているようだった。僕のほうをちらちらと見ている。

「ごめん」

 僕はまず謝った。こういうことは筋を通しておく主義なのだ。

「え、あ、あの」

 頭を下げた僕に、彼女は困惑している。

「八方手を尽くしてみたんだが、現状ではどうにもならないことがわかった」

「そんな……。頭を下げるのはこちらのほうです」

 なんだか泣きそうになっている彼女。嗜虐趣味をそそるな。

「でも、救いはある」

 彼女に顔を近づけて、僕は告げる。同じぶんだけ彼女は、身をよじって後退する。

「新作を書けばいい」

「新作……?」

「そう、新作だ。誰が読んでもぎゃふんと言うようなレベルの、小説を書くんだ」

「え、でも……。そんなのって」

「無理じゃない」

 む、まで言いかけた唇の前に、指を一本立ててやる。

「きみならできる。僕が保証する」

 なぜなら。

「僕がきみの、個人教授になる」

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