僕が小説を書くように
「こ、個人教授?」

「そうだ。きみの書いてきた小説をここで読んで、講評を行い、具体的に指導する。
 本当はアンフェアだが、今回は特別だ」

「えっ、で、でも、先生、お忙しいですよね?
 どうしてそこまで私なんかのためにしてくださるんですか……?」

「きみの書くものに、可能性を感じているからだよ」

 斜め四十五度でじっと見つめると、彼女はさっと顔を赤らめてうつむく。
 これ、癖になりそうだな。

「その代わり、きみはしっかりしたものを書いてこなきゃいけないし、
 もちろん勉強もしなきゃいけない。
 僕のほうから、課題を出す場合もあるだろう」

 僕は立ち上がって、彼女の側に回り込み、肩に触れる。
 彼女は、ぴくんとからだを固くする。

「できるか?」

「……はい、やってみます!」

 声に張りがあって、彼女のやる気がうかがえた。

「よろしい。
 この時間帯、研究室を開けておく。
 誰も、用事がない限り訪ねてこない。
 僕は入室しているから、書庫を好きに使うといい」

 肩に手を置きながら、耳の近くでささやいてやる。

「僕みたいな教員は、きみのような学生のためにいるんだ。
 せいぜい僕を利用するといい」
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