僕が小説を書くように
僕の日常
 また、この季節がやってきた。
 僕は春のそよ風を顔に受けながら、うっすらとほほ笑んだ。

 僕が教鞭をとる大学は、新学期開始を受け、明らかに浮き足立っていた。
 校舎全体が、希望に満ち溢れて、活気づいている。

 僕は、研究室の部屋の窓を全開にして、その空気を味わっていた。
 サークル勧誘、可愛い(もしくは、イケメン)新入生探し、新入生歓迎コンパ……。

「はぁ……」
 知らず知らず、ため息が出る。

「俺、トシ取ったよなぁ……」

 大学卒業と同時に、新人賞を受賞して、小説家デビュー。
 イケメン作家ともてはやされ、良くも悪くも注目されて、本は売れないけれど仕事に困らない毎日。

 酒と女に溺れ、そうでないときは執筆をし、知名度を買われ大学教授という定職も得た。

 定収入があるのはいいが、代わりに雑用に追われるようになってしまい、いつしか研究室の窓から見る景色で四季を確認している始末。

「俺は、自由を手に入れるために、小説家になったのになぁ……」

 単なるおっさんのぼやきである。

 だんだんと髪が薄くなり、女子学生に追いまわされることも減り(そもそも、僕が作家だということを知らない学生も多い)、アッチの方もトンとご無沙汰で……。

「はぁ……」
 これが、ため息をつかなくて、なにをつくというのだろう……。

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