僕が小説を書くように
 コンコン、とノックの音が響いた。

 心拍数がわずかに上昇する。

「どうぞ」

 声をかけると、「失礼します」と彼女が入ってきた。

 今日はなんだか、不思議な形のシャツを着ている。

 彼女には、シンプルなもののほうが似合うのだがなぁ……。

 今度、ブティックに連れていって、服を見繕ってやるか……。

 今の流行に逆らった、からだと脚の線が、強調されるような……。

 脚もあんまり見せてくれないが、ふくらはぎから推測すると、肉感的な感じがするな……。

「あの、先生?」

 彼女が訝しそうにしているため、慌てて頭の中から妄想を追い払った。

「すまない。そこに掛けて」

 彼女が椅子に座る。立ち居振る舞いは、洗練されている。

「書いてきた?」

「はい、これです」

 コピー用紙の束を渡される。

 しばし、紙をめくる音だけが、部屋の中に反響する。

「どうでしょうか……?」

 手を止めて眉間をもむ僕に、彼女が心配そうに問う。

「駄目だね」

「えっ」

「悪くなってる」
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