僕が小説を書くように
「どこが、悪かったんでしょうか……」

「恋愛の要素はいらないんじゃないか? なんだか、取ってつけたみたいだ」

 彼女は、ノートを広げてメモを取っている。

「しかも、全体的にわかりにくい。
 この作品のテーマは……」

「思春期の、自我の葛藤です」

「なら、それを真正面から追究しないと。
 それに、観念的なのは悪くないんだけど、描写が回りくどい。
 観念なら観念を、解体してわかりやすく説明しないと」

 僕は用紙の束を、彼女の側に返した。

「最近の小説は、難解なことを、かみ砕いて説明する技術が求められているんだ。
 僕もそれは、いろいろと思うところがあるんだけどね。
 売れようと思うなら、路線を変更しなきゃいけないジレンマがある」

 僕の最近の小説が、エンタメ寄りなのは、読者の嗜好が変わったせいなのだ。
 そのへんの事情や、出版界の現状を、ざっと講義した。

「きみは、もうちょっと世界を広げたほうがいいかもしれないな。
 学校で友達はできた?」

 彼女は、表情を曇らせた。

「……いえ、歳が離れているとわかると、敬遠されることが多くて。
 私のほうも、殻が硬いところはあるんですが」

「そうか。同年代の友達は?」

「それは、います」

「もうちょっと、遊び歩きなさい。
 書くものの幅が、びっくりするくらい広がるから」

 彼女は、少し顔をしかめている。

「それとも、僕と飲みにいくか?」
 
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