僕が小説を書くように
 それから毎週、彼女は僕の研究室にやってくるようになった。
 
 僕が思ったとおり、彼女はとても頭が切れた。
 当意即妙、打てば響くという表現があるが、まさにそれだ。

 僕が軽くアドヴァイスをするだけで、意図するところをわかってくれたし、
 知識が足りないと自覚すれば、自分で勉強をしてきた。
 課題図書を出すと、きちんと読んできて、中身を理解するだけでなく、自分なりの見解を述べていた。

 こちらが気分にまかせて文学論をぶっても、神妙に耳を傾け、
「でも、こういうこともありますよね」と、僕の見解の穴をついてきた。
 このへんは、予想以上だった。

 彼女はとにかくたくさんの本を読んでいた。
 それでも、自分は勉強不足だと言い、貪欲に知識を追い求めていた。

「きみは、ブッキッシュすぎるな」
 僕がそんな皮肉をつぶやくくらいだった。
 
 作家にはありがちなことだ。
 視野が狭くなると、それが仕事の上での弱点になってしまう。
 僕は、それを懸念していた。

 だから、積極的に冗談も交え、くだらないことも言った。
 当初反応に困っていた彼女も、もう、よく笑顔を見せてくれるようになった。

 彼女は、自分のことを、「コミュ障のひきこもり」だと称していたけれど、そんなことはない。
 じゅうぶん、僕の前で、打ち解けた様子を見せてくれていた。

 その過程で、彼女は、自分の話も少しずつするようになった。

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