僕が小説を書くように
アクシデント
 土曜の夕方、僕は自宅で本の整理に追われていた。

 作家というのは、たいていの人が大量に本を所有している。
 僕も例外ではない。

 自分で買う本もあるし、仕事で読まなければいけない本、付き合いで送られてくる本、数限りない。

「作家なんて、ひきこもって本を読んで、好きな小説書いていればいいんでしょ」

 そう思っている人も多いかもしれない。僕も、作家になる前はそう信じていたし。
 けれど、断言しておく。

 それでは、自分の台所は回らない。
 食っていけないのだ。

 嫌な仕事だって、笑顔で受けなければならない。
 どんなに眠くたって、二日酔いで頭が痛くたって、締め切りをオーバーしてはいけない。

 特に僕は、ノルマで本を読まなくてはいけない。
 雑誌連載と新聞連載で、書評を担当しているからだ。

 もちろん、どんな本からだって得るものはたくさんある。

 けれど、読書を義務化されると、つらくなるのも確かだ。

 ときどき、すべてを投げ出して、南の海に逃げてしまいたくなる。
 そんなとき、好きな女がそばにいれば、もうそれだけでいい。

「ふう……」
 額の汗をぬぐう。
 妄想が商売とは言え、これではいつまで経っても、片付けがはかどらない。

「よっこら、しょっ」
 段ボールを持ち上げたとき、それは起こった。

「ん?!」

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