僕が小説を書くように
 番号をタップし、スマホを耳に押し当てた。

 自分の息遣いが聞こえる。
 なんで俺、こんなに息を荒くしているんだ。

 数回の呼出音のあと、彼女が出た。

「もしもし?」
 胸の中に緊張と安堵が広がる。

「もしもし、えっ、先生?」

「そうだけど」

 彼女の背後に、喧噪が聞こえる。
 街に出ているのか。

「どうなさいました、突然?」

「いや、どうしたもこうしたも」
 どう話せばいいものやら。

「なにか、お声がいつもと違います。
 なにかあったんですか?」

「実は、動けない」

「ええっ」

「腰を痛めてしまって、動けないんだ」

 ひゅっと息を吸い込む気配がした。
「大変!」

「先生、いまどちらですか?」

「自分の家だけど……」

「今から行きます!」

「えっ……!」
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