僕が小説を書くように
「でも、なら、お医者さまを呼んだりしないと」

「いいから。お願いだから」

 顔色を変えている彼女を、ありがたく思った。

 彼女は不満そうだったが、冷蔵庫から保冷剤を取り出して袋に入れ、氷のうをつくってくれた。
 タオルに包んで、僕の腰に当ててくれる。

「ありがとう……これで少し、楽になった」

 僕は突っ伏したまま、礼を言った。
 本当に、痛みが和らいだように感じたのだ。

 彼女は黙って、ゆるゆると首を振った。

 僕は目を閉じた。
 誰かがそばにいてくれることが、こんなに安心するものだとは思っていなかった。

 苦痛は人を気弱にする。
 孤独はもっともっと、心を食い荒らす。

 知らないうちに、僕は浅い眠りに落ちていた。
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